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野菜ジュース摂取により、 メタボリックシンドロームの予防・改善に期待 ーカゴメ、兵庫県健康財団の共同研究ー

年月日

 

 カゴメ株式会社総合研究所(栃木県那須塩原市)は、財団法人兵庫県健康財団(家森幸男会長)との共同研究で、野菜ジュースを摂取した方のうち、メタボリックシンドローム(以下、メタボ)に密接に関連するマーカー(中性脂肪及びHOMA-IR)が高めの方においてメタボの改善を確認しました。野菜ジュースを摂取することによるメタボの予防・改善の効果が期待されます。
 なお、本研究内容は日本公衆衛生学会総会 第68回大会(10月21日〜23日、奈良文化会館)において発表いたしました。


■ 共同研究者 兵庫県健康財団 家森幸男会長のコメント

 メタボの状態では、動脈硬化が促進され心筋梗塞や脳梗塞などの重篤な血管疾患のリスクが高まります。メタボを予防・改善するためには食習慣、運動習慣を見直すことが重要で、その中でも野菜摂取量を増やすことは大変重要なことです。本研究では、野菜を摂る手段として野菜ジュースを摂取した結果、メタボの予防・改善に有効であるということがわかりました。今回の研究は2ヶ月という限られた期間でしたが、日頃から継続して野菜を摂ることが重要であるといえます。無理せず長期的に野菜をより多く摂取しようとする人にとって、野菜ジュースはメタボのリスク改善の応援団ともいえます。


■ 研究の背景

 現在、メタボの予備群を含めた該当者は、40〜75歳の男性の約50%、女性でも20%(平成19年 国民健康・栄養調査調べ)と非常に高い割合を占めています。メタボは動脈硬化が要因となる様々な疾患を引き起こし、循環器病での死亡リスクは約2倍に高まる(2009年 厚生労働省研究班調べ)といわれています。一方、メタボと野菜摂取との関連性について、野菜や果物の多い食事パターンではメタボのリスクが低い(Baxter AJ et.al.,2006)といった報告や、野菜に含まれる成分であるカロテノイドを食事から多く摂取することはメタボのリスクを低下させる(Sluijs et.al.,2009)といった報告があります。
 ところが、日本人の野菜摂取量は健康日本21で提唱されている目標値350グラム以上に対して、実際の平均値は約290グラム(平成19年 国民健康・栄養調査調べ)と大きく不足しています。これら野菜摂取の現状やメタボとの関連性を踏まえ、野菜の摂り方の1つとして野菜ジュースによりメタボの予防・改善効果が期待できると考え、本研究を実施しました。


■ 研究概要

≪目的≫

本研究では以下の2つを目的に試験を行いました。
1.野菜ジュース摂取がメタボ関連マーカーに与える影響について明らかにする。
2.血中カロテノイド濃度とメタボ関連マーカーとの相関を解析し、メタボのリスク低下と血中カロテノイド濃度の関連性を明らかにする。

≪試験の方法≫

 被験者は兵庫県佐用町に在住で、試験参加の同意を得られた56歳〜83歳の55名です。食事バランスガイドを利用した食生活全般の指導を全員に実施後、野菜ジュースを1日1本2ヶ月間摂取する群24名(摂取群)と、摂取しない群31名(非摂取群)に分けました。なお、試験には野菜ジュースとして、カゴメ株式会社製『野菜一日これ一本』 200mLを用いました。試験期間の前後で採血、採尿、問診などを行い、メタボの診断基準に使われている指標を中心とした血圧、糖、脂質の指標と血中カロテノイド濃度を測定しました。

[評価項目]
血圧指標:収縮期血圧、拡張期血圧
糖指標:空腹時血糖、HbA1c、HOMA-IR
脂質指標:中性脂肪、HDLコレステロール、LDLコレステロール、総コレステロール
血中カロテノイド濃度:α-カロテン、β-カロテン、リコピン、ルテイン

解析にあたっては、以下の2つの観点から評価を行いました。


試験1 野菜ジュース摂取がメタボ関連マーカーに与える影響について

 評価項目の摂取前後の値について摂取群と非摂取群とで比較しました。次に、摂取群及び非摂取群の中でメタボ関連マーカーの値が高めの方と低めの方に分け、野菜ジュース摂取の影響を検討しました。高めの方と低めの方を分ける基準値はメタボの診断基準や関連学会が提唱する値を参考にしました。試験1ではメタボに対する野菜ジュース摂取の効果以外の要素をできるだけ排除するため、試験対象者のうち、以下の3つの条件に該当する方を選抜し、解析対象者としました。
1.メタボの診断基準に1つ以上該当する方
2.各評価項目に関わる薬を服用していない方
3.非摂取群の方、もしくは摂取群で試験後に血中カロテノイド濃度が上昇した方


試験2 血中カロテノイド濃度とメタボ関連マーカーとの相関について

 メタボのリスク低下と血中カロテノイド濃度の関連性について検証するため、野菜ジュース摂取前における血中総カロテノイド濃度とメタボ関連マーカーとの相関を解析しました。

≪結果≫
試験1 野菜ジュース摂取がメタボ関連マーカーに与える影響について/図1. 摂取群における中性脂肪とHOMA-IRの推移/(平均±標準誤差, *基準値以上と未満の変動パターンに有意差あり p<0.05(ANOVA))

 試験前後のメタボ関連マーカーの変動について摂取群と非摂取群で比較した結果、数値上差がみられますが有意な差を得ることができませんでした。しかし、図1に示したように、摂取群において中性脂肪やHOMA-IRが高めの方では、野菜ジュース摂取により有意差をもって改善しました。なお、非摂取群では高めの方、低めの方で有意な差はありませんでした。
 以上より、中性脂肪、HOMA-IRが高めの方が野菜ジュースを摂取することで改善が期待できます。

試験2 血中カロテノイド濃度とメタボ関連マーカーとの相関について/図2. 血中総カロテノイド濃度とメタボ関連マーカーとの相関  (Peason)

 野菜ジュース摂取前における血中総カロテノイド濃度とメタボ関連マーカーとの相関を解析した結果、図2に示したように血中総カロテノイド濃度と、中性脂肪、HOMA-IR、収縮期血圧との間にそれぞれ有意な負の相関を確認しました。
 要するに、血中総カロテノイド濃度の高い方はこれらの値が低く、メタボのリスクが低いということが考えられます。

≪まとめ≫
野菜ジュース摂取により中性脂肪やHOMA-IRの値が高めの方で改善がみられました。また、その作用は野菜に含まれるカロテノイドが関係している可能性があります。
つまり、日頃から継続して野菜ジュースを摂取することでメタボの予防・改善効果が期待できます。



■ 用語の説明

メタボリックシンドローム:
内臓脂肪の蓄積がもとで、脳卒中や心筋梗塞などの疾病になりやすい状態を示します。内臓脂肪型肥満に加え、高血糖、脂質異常症、高血圧などのさまざまな疾患をあわせもつ状態です。

メタボリックシンドロームの診断基準

(1) 腹囲(ウエストサイズ):男性85cm以上、女性90cm以上
(2) 血圧:収縮期が130mmHg以上または拡張期が85mmHg以上
(3) 血糖値:空腹時血糖値110mg/dl以上
(4) 血中脂質:中性脂肪150mg/dl以上
   またはHDL-コレステロールが40mg/dl未満
(1) に加え、(2)〜(4)のうち2項目以上に該当する場合(治療薬を服用している場合を含む)

カロテノイド:
主に植物に存在する、赤・橙・黄色の色素です。ニンジンにはβ-カロテン(橙色)、トマトにはリコピン(赤色)、赤ピーマンにはカプサンチン(赤色)が特徴的に含まれています。最近は、抗酸化作用による疾病予防作用が注目されています。

インスリン抵抗性:
血糖値の恒常性維持に重要な働きを担うホルモンであるインスリンの作用効率が低下している状態です。近年、肥満が基盤となって全身のインスリン抵抗性が惹起され、糖尿病、高脂血症、高血圧の発症につながるため、これらがリスク要因となって動脈硬化性心疾患を引き起こすといわれています。

HOMA-IR(Homeostasis model assessment insulin reistance index):
空腹時血糖値とインスリン値から算出するインスリン抵抗性の疫学指標です。
計算式:HOMA-IR=空腹時血糖値×インスリン値÷405

食事バランスガイド:
望ましい食生活についてのメッセージを示した「食生活指針」を具体的な行動に結びつけるものとして、1日に「何を」「どれだけ」食べたらよいかの目安を分かりやすくイラストで示したものです。厚生労働省と農林水産省により平成17年6月に決定されました。「食事の基本」を身につけるための望ましい食事のとり方やおおよその量をわかりやすく示しています。



【資料】学会発表の要旨(日本公衆衛生学会)
野菜ジュース摂取がメタボリックシンドロームに与える影響について


宮下達也1、森啓信1、稲熊隆博1、村上修子2、家森幸男2、3
1カゴメ株式会社総合研究所、2財)兵庫県健康財団、3武庫川女子大学国際健康開発研究所

【目的】
食生活は生活習慣病との関連が深い。その中でも野菜は、ビタミン、ミネラル、食物繊維、カロテノイドなどの重要な摂取源であるため、野菜摂取量を増やすことは疾病予防に重要である。本研究では、食生活改善事業の一環として、野菜ジュース摂取がメタボリックシンドローム(以下、メタボ)に与える影響について検証することを目的とした。

【方法】
本試験への参加に同意を得られたメタボリスク(BMI≧25、腹囲≧85cm(男性)及び90cm(女性)、収縮期血圧≧130mmHg、拡張期血圧≧85 mmHg、中性脂肪≧150mg/dL、HDL<40 mg/dL、空腹時血糖≧110 mg/dL、HbA1c≧5.6%)を一つ以上有する55名を試験対象とし、試験前後に健診及び24時間採尿を行った。まず、試験前の血中カロテノイド濃度とメタボリスクの相関を解析した。次に、食事バランスガイドを活用した「食生活改善指導」を行い、野菜ジュースを1日1本、2ヶ月間摂取する群(24名)と非摂取群(31名)とに分け、血中や尿中のメタボ関連マーカー(収縮期血圧、拡張期血圧、総コレステロール、中性脂肪、HDLコレステロールLDLコレステロール、空腹時血糖値HbA1c、HOMA-IR、高感度CRP)及び血中カロテノイド濃度を比較 オた。また、各メタボ関連マーカーについて、試験前の値を基準に層別解析を行った。さらに、各群の試験前後のメタボリスクの保有数の変化を解析した。

【結果】
試験前の血中カロテノイド濃度と収縮期血圧、中性脂肪、HOMA-IRに有意な負の相関が確認された。摂取群では総カロテノイド、α-カロテン、β-カロテン、リコピンが有意に上昇した。メタボ関連マーカーにおいて、摂取群と非摂取群で有意な差は認められなかったが、摂取群で試験前の値が高いヒトのみについて層別解析を行った結果、中性脂肪とHOMA-IRの有意な改善がみられた。また、ジュースの摂取前後でメタボリスクの保有数が低下した。

【考察】
試験前健診のメタボリスクとカロテノイドの相関から、日常的にカロテノイドを含む緑黄色野菜を摂取することがメタボの予防に重要であると考えられた。2ヶ月間の野菜ジュースの短期摂取により、中性脂肪、HOMA-IRが改善したほか、血中カロテノイドの有意な増加がみられたため、長期間摂取によりさらにメタボを改善する効果が期待される。