トップメッセージ

第3次中期経営計画 1年目の市場環境認識と業績評価

経営環境が激変した1年

これまでに培った利益を獲得する力をベースに、トップラインの成長を追求することを基本戦略とする第3次中期経営計画が2022年からスタートしました。
しかしながら、スタート直後から、ウクライナ情勢の急変や円安の急激な進行、農業分野に甚大な影響を及ぼす自然災害の頻発といった事態が重なり、これまで経験したことのない経営環境の激変に直面しました。
コロナ禍からの経済回復に伴うコスト上昇を当初より経営計画に織り込み、2022年4月にトマト調味料を中心とする価格改定を行いましたが、時間の経過とともに原材料価格の上昇規模が大きくなり、それを考慮して、同年7月に、通期業績予想の修正を発表しました。
また、この原材料価格の上昇は短期的なものではなく、第3次中期経営計画期間中は継続するものと考え、中期的な原材料の安定調達に向けた戦略の見直し、さらなる原価低減施策や、お客様の購買行動の変化を捉えたプロモーションの実行など、緊急に手を打たなければならない課題への対応を全社一丸となって進めてきました。コロナ禍に対応する中で高まった変化対応力を従業員一人ひとりが発揮し、機動的に活動した1年でした。

2022年度業績評価

国内加工食品事業においては、原材料価格上昇への対応に加えて、当社の主力商品である野菜飲料の売上回復も大きな課題でした。これまではコロナ禍により高まった、「免疫力のために野菜をもっと摂りたい」というお客様の意識にお応えすることで、当社の野菜飲料の売上は伸長してきました。しかしその後、野菜摂取ニーズに対応した商品の増加に伴う競争の激化により、主力ブランドである「野菜生活100」の売上が2021年度を割り込む状況となりました。
その要因は「野菜生活100」の「食事の野菜不足を手軽においしく補える」という基本的価値がお客様の意識の中で希薄化したことにあり、それを踏まえて、下期からの情報発信やプロモーションを変更することで、第3四半期以降の売上は、前年同期を超える水準まで回復させることができました。
また、国際事業においても原材料価格は上昇していますが、販売価格への反映を着実に進めると同時に、外食・中食市場の需要獲得に向けた取り組みを進めました。
結果として2022年度の業績は、売上収益2,056億円(前年度比+8.4%)、事業利益※128億円(前年度比△9.4%)となりました。2022年7月に修正した業績予想を上回る内容で着地できたことで、2023年度に向けて前向きな材料になったと捉えています。

※事業利益は売上総利益から販売費及び一般管理費を控除し、持分法による投資損益を加えた利益であり、IFRSで定義されている指標ではありませんが、当社の取締役会は事業利益に基づいて事業セグメントの実績を評価しており、当社の経常的な事業業績を測る指標として有用な情報であると考えられるため、自主的に開示しております。

ターニングポイントとなる2023年

コスト上昇を跳ね返す機動的な対応、次の成長の柱となる事業探索の強化

当社の主力原材料である多くの農産原料は、翌年に必要な量を、当年に一括発注しています。そのため、2022年に加工された農産原料は、2023年になってから使用されます。2022年においてトマトをはじめとする農産原料の価格は世界的に高騰しましたが、その影響を本格的に受けるのは2023年になります。2022~2023年のコスト上昇額は、2021年度の事業利益の141億円を超える規模になると予測しています。これは当社がこれまで経験したことのない短期間での大幅な上昇であり、まさに有事とも言える事態です。2023年度は減益となりますが、この有事にどのように対応していくかが、短期的な業績だけでなく、これからのカゴメの未来に大きな影響を与えることになります。2023年はまさにターニングポイントの1年になると考えています。
2023年には2つのことを迅速に実行していきます。1つ目は、コスト上昇を跳ね返す機動的な対応です。メーカーの責務として生産性向上やロス削減に最大限取り組みます。しかしながら直面している急激で大幅なコスト上昇は、そのような自助努力の範囲を超えています。その対応として、流通などのお取引先やお客様に当社の状況を丁寧にご説明した上で、2023年2月に家庭用商品約150品目・業務用商品約178品目の価格改定を行いました。今後は、価格改定後に一時的に落ち込むと予想される販売数量の早期回復に、全社を挙げて取り組んでいきます。飲料事業においては、2023年の春から「彩り豊かな野菜の色が毎日の暮らしをあざやかにする」というコンセプトの新しいコミュニケーションを大々的に展開します。また、食品事業においては、日本一のオムライスを決定する「オムライススタジアム®2023」を核としたトマト調味料の情報発信を強化します。これらの活動を、需要の回復にとどまらない、新しい需要の創造につなげていきます。
加えて、農産原料の安定調達力をさらに高める対応を進めます。当社は、農産原料の9割以上を海外から調達しており、調達拠点数は179拠点(2021年度実績)にのぼります。これは、長い期間をかけて分散型のグローバルな調達ネットワークを構築してきた結果であり、産地ごとの作況変動の影響を最小限に抑えています。また、オーストラリアやポルトガルなどの重要な産地には、グループ会社を保有する体制も整えてきました。しかしながら、今般の農産原料の価格高騰や新たに生じた地政学的リスク、さらには中長期的な気候変動の深刻化に対応していくためには、グローバル調達ネットワークの一層の強化が必要と強く認識しており、喫緊の課題として再構築に取り組みます。
2つ目は、新しい成長の柱となる事業の探索を強化することです。新しい事業の探索にはコストも時間もかかり、さらに、これからの数年間は、厳しい経営環境の継続が予測されます。しかしながら、ここで探索活動のボリュームを下げてしまっては、数年先に成長できない時期が来てしまいます。厳しい状況を乗り越え、持続的な成長を遂げるために、強い意志を持って新しい事業の探索を続けていきます。

第3次中期経営計画の進捗と今後の取り組み

「ありたい姿」の実現をめざし、4つのアクションを着実に進める

第3次中期経営計画は、2022年からの4年間で、「食を通じて社会課題の解決に取り組み、持続的に成長できる強い企業になる」という2025年のありたい姿の実現を目標としています。このありたい姿は、事業活動を通して、社会的価値と経済的価値の両方を創出する当社の価値創造プロセスそのものであり、経営環境が変化しても、その基本的な考え方は変わりません。ただし、2025年の定量目標については見直しを行います。現時点において、売上収益は国際事業の売上増加や価格改定により、当初の目標である年平均成長率2%を上回る進捗となっています。一方、急激な原材料価格の上昇影響で、事業利益については、当初の想定との乖離が大きくなっています。この状況を踏まえ、新たな2025年の定量目標を設定し、2024年2月の決算説明会までに改めて提示します。
第3次中期経営計画の基本戦略「4つのアクションの有機的連携による持続的成長の実現」については、厳しさを増す経営環境下においても中期的な成長のカギを握るものであり、グループ一体となって着実な歩みを進めます。

4つのアクションの進捗

① 野菜摂取に対する行動変容の促進
野菜の摂取量を増やすことは、「健康寿命の延伸」という社会課題の解決とともに、カゴメの持続的な成長にもつながる重要な取り組みです。引き続き、野菜不足の自覚と野菜摂取の行動変容につながる情報発信を積極的に行っていきます。ベジチェック®は、この2年間で供給体制の整備が進み、2023年1月には累計測定回数が232万回を超えました。スーパーの店頭などでの設置が進んでおり、生鮮野菜の買い上げ点数の増加や、ベジチェック®計測が来店動機になるなどの効果も確認でき、流通・小売からの期待も高まっています。野菜摂取に対する行動変容に直結するベジチェック®の体験を、このアクションのキーコンテンツとして設置場所の拡大、継続測定を促す仕組みづくりを加速します。

※ センサーに手のひらを押し当て数十秒で、野菜摂取レベル(0.1~12.0)と推定野菜摂取量(6段階、g)が分かる機器。数十秒で測定が完了することから、利用者がその場で結果を見ることができる簡便さが特徴。

② ファンベースドマーケティングへの変革
ファンベースドマーケティングは、カゴメのブランド・商品・サービスに共感し、強い愛着を持っていただける「ファン」を増やしていくマーケティング活動です。現在、農から暮らしにつながる様々な体験コンテンツの開発と、その提供機会の拡充に取り組んでいます。この活動は「農業振興・地方創生」という社会課題の解決につながり、農から価値を創出しそれをお客様にお届けするという創業時からの活動も継承しています。
2022年から「植育から始まる食育」という活動を進めています。きっかけは、厚生労働省が推奨する1日350g以上の野菜を摂取している人の約半数が、子どもの時に野菜の栽培や収穫体験をしたことがあるという当社のアンケート調査でした。この結果をもとに「野菜を植えて育てる」機会をお子さまに提供し、未来の野菜好きに育てたいという想いでスタートした活動が「植育から始まる食育」です。具体的には、野菜生活ファームで季節ごとの野菜を収穫できる体験コースを設けたり、トマト苗の配布や栽培講習会の実施、店頭でのトマト収穫イベントなどを実施しています。幅広い野菜体験コンテンツを有機的につなげ、野菜との接点を増やします。

③ オーガニック・インオーガニック両面での成長追及
・オーガニック
国内事業の需要創造力と国際事業の成長力を重視
第3次中期経営計画では、既存事業を安定的に成長させていくオーガニック成長と、M&Aなどにより新たな資源・リソースを得ることで成長するインオーガニック成長の両面から、持続的な成長を追求しています。
まずオーガニック成長についてです。国内加工食品事業においては、先ほどお話しした価格改定後の需要の回復や新しい需要の創造に注力します。
加えて、2023年においては国際事業のオーガニック成長が重要なポイントになると考えています。特にトマトペーストなどを製造する一次加工ビジネスについては、市場環境が大きく変化しています。コロナ禍以前は世界的にトマトペーストの在庫が過剰で、相場価格が低迷していました。そのため、当社の一次加工ビジネスは、生産規模を適正化し利益を確保する戦略をとってきました。それが、コロナ禍からの経済回復の中で外食需要が増加し、気候変動やウクライナ情勢の影響もあって、トマトペーストの需給は逼迫する状況になりました。また、今後も不安定な国際情勢や天候リスクの高まりが継続する可能性を考慮すると、当社の一次加工ビジネスの戦略を見直すことが極めて重要になります。一次加工のグループ会社を保有している当社の強みを活かし、トマトペーストを安定生産、安定確保することで、国際事業のオーガニック成長を支える構造をさらに強化します。

・インオーガニック
オープンイノベーションによる新事業創出と米国における成長戦略
この数年間で種を蒔いてきた3つの取り組みが、2022年に新しい事業として芽を出しました。1つめは、プラントベースフードを展開するスタートアップ企業の株式会社TWOとの協業です。2022年には第一弾となるにんじんや白いんげん豆で作ったプラントベースエッグ「Ever Egg」を使用した冷凍食品のプラントベースオムライスを発売し、流通やお客様から大きな反響を頂きました。それに続いて2023年4月には共同開発商品第2弾となる新商品を発売し、プラントベースフードの新たなユーザーの獲得を目指します。2つめは、不二製油株式会社との協業による、プラントベースフードの新ブランド「SOVE®」の立ち上げです。公式ホームページのみで販売する大豆と野菜から作ったシリアルを2022年10月に発売し、新しい需要の創造に取り組んでいます。3つめは、AIを活用した加工用トマトの営農支援事業です。日本電気株式会社(NEC)とともに、合弁会社DXAS AgriculturalTechnology LDAをポルトガルに設立し、より環境に優しく収益性の高い営農を促進するサービスを提供しています。今後も、こうしたオープンイノベーションから新しい成長の芽を創出し、早期に収益が期待できる事業に育成します。
また、米国での成長戦略については、2021年に設立した「米国成長戦略プロジェクト室」を中心に、他企業との協業やM&Aなどのインオーガニック成長も視野に入れた多面的な検討を進めています。

④ グループ経営基盤の強化と挑戦する風土の醸成
足元の課題への機動的な対応と中長期的な成長へのチャレンジ、どちらにもグループ経営基盤の強化は欠かせません。特に、バリューチェーンの強化については、これまで述べてきた通りグローバル調達ネットワークのさらなる強化に加え、国内原料の調達拡大にも取り組んでいます。
DXの推進においては、IT戦略立案や大型DX案件の意思決定を行う「デジタル化推進会議」と、DXの風土づくり・人材育成などを担う「DX推進委員会」の2つの会議体による推進体制をとっており、顧客情報基盤の整備やRPAによる自動化などの生産性向上に向けた活動が進んでいます。また、2025年までに全社員の1割を、DX課題を自らの力で解決できる人材に育成すべく、教育プログラムを整備し実施しています。
持続的な成長を実現するためには、イノベーションの継続的な創出が必要です。当社では、多様な人材が働きがいを感じながら力を発揮することがイノベーションの創出につながるという考えから、多様性を担保するための採用や風土づくりに積極的に取り組んでいます。最も注力しているのは、心理的安全性を大切にする風土を浸透させ、多様な人材が、率直に意見交換できる環境を整備することです。エンゲージメントサーベイの分析や、「トップと語る会」での従業員との率直な意見交換などを通して、心理的安全性を高め、挑戦する風土を醸成します。

サステナビリティの取り組み強化により、社会課題解決を加速する

サステナビリティ委員会の設置とリスクマネジメント体制の強化

農と健康と暮らしをつなぐ事業活動を展開している当社にとって、サステナビリティへの取り組みは「食を通じて社会課題の解決に取り組み、持続的に成長できる企業」を目指す事業活動そのものです。そのために、長期を見据えた機会やリスクを経営戦略に反映していく必要があると考え、2022年にサステナビリティ委員会を設置し、より長期的な視点での議論や検討、マテリアリティの推進に取り組む体制を整えました。サステナビリティ委員会では、長期的な価値の創出、持続可能な社会の実現を目指す4つの「サステナビリティ課題」を設定しています。持続可能な農業、サーキュラーエコノミー、環境負荷の低減、サプライチェーンCSRの4つの課題に対し、分科会を通じて長期の備えや対応策の検討を進め、経営戦略に反映していきます。
解決すべき社会課題の中で、特に気候変動は深刻さを増しています。地球温暖化防止に向けて、2050年までに当社グループの温室効果ガス排出量を実質ゼロにすることを目指し、2030年に向けた温室効果ガス排出量の新しい削減目標を策定しました。新しい目標は、SBT(Science Based Targets)イニシアチブ※の認証を取得しています。この目標の達成に向けて、全社横断的な「CO2排出削減プロジェクト」にて2030年までのロードマップを策定しました。今後は、ロードマップに沿った長期的な視点での環境投資を積極的に行っていきます。
また、厳しい経営環境変化を踏まえ、当社のリスクマネジメントにおける体制や責任の所在を明確にするべく、CRO(最高リスクマネジメント責任者)とリスクマネジメント統括委員会を設置し、具体的にリスクを捉えて対処していく仕組みを整備しました。

※ SBT(Science Based Targets)イニシアチブ:企業の温室効果ガス排出削減目標がパリ協定の定める水準と整合していることを認定する国際的イニシアチブ

ステークホルダーの皆様とともに、強い意志を持ち、この難局を乗り越えます

カゴメグループは現在、未曾有のコスト上昇により、かつてない局面に直面しています。このような状況であるからこそ、「食を通じて社会課題の解決に取り組み、持続的に成長できる強い企業」を目指すというカゴメの軸をこれまで以上に強く意識し、私たちがやるべきことに愚直に取り組むことで、この局面を乗り越えていく覚悟です。そのためには、皆様のご協力やサポートが欠かせません。ステークホルダーの皆様と新しい価値を共創することで、成長し続けるカゴメグループへと進化させていきます。

今後とも変わらぬご支援を賜りますよう、引き続きよろしくお願い申し上げます。

2023年3月
カゴメ株式会社
代表取締役社長
山口 聡

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